木村政雄の私的ヒストリー

HISTORY

第話

 興味を持ったのがもう一つ。10日毎に行われる新喜劇の稽古を見ることでした。各劇場のプログラムは10日毎に替わり、漫才や落語の芸人さんはそれぞれ単独で新たに出演する劇場に移動するのですが、吉本新喜劇のメンバーだけは、チーム毎に移動して、翌日からの芝居の稽古をしてから舞台に臨むのです。京都花月の場合は、難波花月に出演していたチームが21時に舞台を終えてから移動してきます。それから各自が食事をとって、24時くらいから立ち稽古が始まります。すんなりいけばいいのですが、少しでも引っかかると3時くらいになることも。主要なメンバーはそれで「お疲れさま!」となるのですが、中堅・若手はそのあとにまだポケットミュージカルという歌とコントのリハーサルまであって、終わると朝の5時くらいになることもありました。

 大阪の本社からプロデューサーの制作部の先輩たちもいて、照明・音響・舞台進行など劇場の制作スタッフはともかく、事務所の人間まして私のような新人が立ち会う必要はなかったのですが、芝居が出来上がる様子を見るのが面白くて勝手に居残っていました。当然、時間外手当など付くわけもありません。薄給の身ですからタクシーに乗ることなど及びもつかず、始発電車に乗って帰宅、仮眠をとり10時には出勤していました。

 そうして初日を迎え、実際に舞台にかけ、お客さんの反応を見て、良ければいいのですが、悪ければ手直しをするためのミーティングが始まります。主に座長クラスの発言が強く、作家やプロデューサーはどちらかというと発言力のある座長に押され気味で、どれだけその意を反映させるかに汲々としていたように思えました。生意気にも心の中で「結局、自分が立たないといやなだけじゃん」なんてつぶやいていた気がします。結局どこかで見た手慣れた芝居に戻ってしまうのが残念でした。とはいえ吉本新喜劇に求められているのは、芸術性ではなく、お客様に腹の底から笑っていただくということですから、役者さんたちの言う方が正しいのかもしれません。

 平参平さんや財津一郎さん、秋山たか志さん、花紀京さん、岡八郎さん、原哲男さんなど座長クラスの役者さんたちには、あいさつ以外は口もきけなかったのですが、若い座員の人たちからは稽古に立ち会っていて、年も近いということで徐々に話がけられるようにもなってきました。

平参平さん、岡八郎さんなど座長クラスの方々が出演していたポスター