木村政雄の私的ヒストリー

HISTORY

第話

 あっという間に10日間ほどの研修が終わりました。今まで体験したことがない世界で、それはそれで面白かったのですが、4月になれば本社勤務で、もうここに来ることはないだろうなと思っていました。まだ卒論が残っていましたが、早くから「三島由紀夫論」と決めていたので、さほどの苦労もなく書き終えることができました。ゼミの指導教授は八田恭昌さんといい、専門は「西欧思想史」、缶入りのピースを教室に持ち込んで紫煙をくゆらせながら、ユーモアたっぷりに講義をする異色の教授でした。「ジャーナリズムの中立性」とか「不偏不党とは」を真面目に論じる、くそ面白くもない他の教授と違って、とても魅力ある人柄のように思えました。もっとも「この先生ならゼミも緩そうだな」という下心があったことも確かですが。他のゼミ生も同様の連中が多く、よそのゼミよりもやんちゃな気風にあふれていたように思います。何せ、ゼミの最終試験時「辞書持ち込み可」とあったので、「どんな問題がでるのか?」と緊張していたら、「1年間の講義の感想を書け」というふざけたものでしたから。目いっぱい「よいしょ!」を書き連ねたことは言うまでもありません。もちろん評価は優。

 我々がゼミの1期生ということもあったのでしょう。本当に可愛がっていただきました。北白川のご自宅に泊めていただいたことも5度や6度ではなかってように思います。新京極で知り合った女の子と、銀閣寺辺りのラブホテルへしけこもうとした時、正月で普段の倍料金になっていて、手持ち金だけでは間に合わなくて先生宅まで伺ったこともありました。夜更けにも関わらず女の子ともども座敷に通され、「くれぐれも、間違いをおこさないように!」という言葉とともにお金を拝借したこともありました。「これから、間違いを起こそうとしているのに」内心そう思いながら、神妙さを装ってお金をお借りしたこともありました。翌日、入学時に父からプレゼントされた時計を質に入れ、お金を返しに行ったことは言うまでもありません。

大学の卒業式にて 中央がゼミの八田教授 私は後列の左側にいます。

 

当時の学業成績証明書は「優」がほとんど!

後年、同窓会のあとに八田教授のご自宅を訪ねて(左から3人目が奥様)

 

八田教授の著書「西洋の没落」(桃源社・刊)